what-if
・過去スレにあった事件回避のもしも話
・本スレ24の»52からのネタも
・
・普通の話より早くなんでも言えるようになった子ワニ
腕を引っ張られて抱きつくように腕を掴まれる。
「クロ」
「行かないで!」
続く言葉をかき消すような声を出されて慌ててしゃがむとあっという間に船は沖へ、三千万ベリーは遥か彼方だ。
「行かないから大丈夫。ね?」
ジッと睨みつけながらも後ろで逃げていく船が見えなくなる頃ようやく手が離される。
「はなれちゃダメだ」
まあ一応幹部二人分は捕縛したけれどできれば船長とも戦いたかったなという考えも浮かんだ。⋯⋯そこまでの獲物じゃないか。
「はなれないよ」
そっと放された手が今度は左手を握りしめた。
私が以前ちょっとした暇つぶしをしようとした時に抱きついたクロは小さな声で必死だった。
「行かないで⋯⋯行っちゃいやだっ⋯⋯」
今にも泣きそうな顔に人生で初めて慌てたと思う。
「どうしたの。ごめんね大丈夫行かないよ」
そんな言葉を重ねて玩具が通り過ぎた頃
「そんなに私と遊びたかったの? 言ってくれれば良いのに」
と言ったらクロはポカンとした顔をしていた。
「行かないで」
それからというもの、私がどこかに行こうとするとたまーに袖を引いたり手をつないだり最近は後ろから抱きついてきたりする。
大体武器を持ってる時で毎回危ないよと注意したが
「危ないのはアニキだ」
と言い返される。どうやらクロからすると私を助けているつもりのようだ⋯⋯なにからなのかは不明のままだけど。
家に帰ってからも今日は手を何時までもはなさない。
「アニキは」
立ち止まったクロの前でしゃがんで膝をつくとうつ向いてしまう。
「アニキ⋯⋯は」
「なぁに、クロ」
「おれといて」
黙り込んだ言葉の続きは分からないまま私は頷いた。
「楽しい。クロといると嬉しくていつもはしゃいじゃうくらい! だからクロが良いなら大きくなるまで一緒にいたい」
いいかな。両手を包んで聞いて長く感じる時間がたつとおずおずと顔を上げて私を見てくれた。
「おれといる?」
「うん。信用できないかな」
「できない」
「えっ」
しょんぼりしてると当たり前だろと更に言われて落ち込む。そうなのか私信用ない⋯⋯
「だからちゃんと一緒にいて、証明してくれよ。そうしたら信じる」
分かったか?と聞かれて頷くとようやく顔が明るくなった。なんだか立場が入れ替わってないかなぁと思ったけど、まあいいか。
「ずぅぅっとだからな!」
「うん」
クロが去っていく背中はきっと世界一カッコいい海賊服を着た立派な大人の後ろ姿だ。
私はその楽しみをクロごと抱きしめて思いきり笑ってやった。